「一つ FBIは悪にやぶれるよりは死をえらぶ 二つ FBIは英雄とならず ひそかに英雄のはたらきをすべし」
「ハリケーンGメン」
(画:九里一平)
冒険王
連載/12月号~1963年5月号
※同誌1963年お正月大増刊号に読切短編「財宝のカギ」が掲載されてるが梶原一騎の原作クレジットはない
【各話タイトルとあらすじ】
第1話「FBI日本第1号」:米国プロレス界で活躍する覆面レスラー、ハリケーン・キッドこと風巻健二。FBIにその腕と正義感を見込まれた彼は、スカウトを受け日本人第1号のメンバーとしてスカウトされる。厳しい訓練を経た健二に、日本への帰国と祖国防衛の任務を与えられた。(1961.12月号~1962.3月号)
第2話「魔銃」:手にした人間を死に至しめる“魔銃”。その正体と死の謎を解こうと捜査を始める健二。銃の開発者だった立花博士の娘・マリの協力のもと、香港ギャング団のボスを追いつめた健二の前に、殺し屋・香港の星が現れた!(1962.4月号~8月号)
第3話「忍者革命団」:忍術による日本征服を企んだ“忍者革命団”が要人暗殺事件を起こす。健二にそのトリックを見破られた頭領・百地三太夫は、娘の美香を使って彼の抹殺を目論んだ。しかし健二の優しい言葉に美香の心が揺れ動く。(1962.9月号~1963.1月号)
第4話「死神博士」:自衛隊訓練場に突如現れた空飛ぶ戦車!死神博士の作った日本侵略兵器には銃弾やミサイル、大砲の攻撃が命中しない。ニューヨーク本部で英気を養っていた健二は知らせを受けて一路日本へ向かう!(1963.2月号~5月号)
電子書籍:未刊行
単行本:きんらん社/全2巻迄 ※全3巻説あり(未確認)
【BONメモ】
当時まだ聞き慣れない職業である“Gメン”。本来の職務とは大きく異なるが、対する敵のスケール感や主人公の使う秘密兵器に工夫があり違和感なく楽しめる。更に特筆したいのは本作が梶原作品史上初となる“主人公が己の信念に殉じた悲劇”で終えたことである。(2024.11.24)
「きみにとって愛がいのちであるように ぼくのいのちはプロレスだ」
「チャンピオン太」
(画:吉田竜夫)
週刊少年マガジン 連載/1号~1963年52号
●国体の幾つもの競技でタイトルを持つ大東太は、プロレスというスポーツに魅せられて力道山率いる団体「日本プロレス」に入門する。小さな身体というハンデも、持ち前のファイトと鍛練で克服し見事プロレスラーとしてデビューを果たす。死神酋長、ミスター50メガトン、ザ=ココナッツ、シュミット博士といった強敵との闘いの日々の中、たったひとりで孤児院を経営する少女・るり子や同門で親友のゴローの励まし、師・力道山の厳しい指導の中で、逞しく成長する太。「ノックアウトQ」「ダブル=ノックアウトQ」「大空中がため」「人間水爆」等の必殺技を編み出し、時として敵に敗北するも、その度に立ち直り勝利を掴む。そんな太に世界ライト級チャンピオン・グレートZとの挑戦権が訪れた。親友のゴローと共に、敵地に赴いた太。「チャンピオン有利」の声が高まる中、必殺技・人間水爆を敗れた上、手を負傷してしまった太は最大のピンチを迎える。しかし、機転によってチャンピオンの必殺技・Z式のうてんおとしを敗り見事勝利を収める。孤児院で試合を観戦していたるり子は、太から貰った婚約指輪を手に彼の帰国を待ちわびるのであった。
電子書籍:未刊行
単行本:講談社/全3巻(※未完結)
第1巻「レスリング修行の巻」
第2巻「必殺技発見の巻」
第3巻「ノックアウトQの巻」
きんらん社/全8巻 (※内容は講談社版の続き)
第1巻「関西ワールドリーグの巻」
第2巻「ハワイの嵐の巻」
第3巻「恐怖博士シュミットの巻」
第4巻「第二の必殺わざの巻」
第5巻「もえるトカゲの巻」
第6巻「ミイラのなぞの巻」
第7巻「怪人ブラックバットの巻」
第8巻「栄光の王座の巻」
マンガショップ/マンガショップシリーズ全5巻【完全版】
【BONメモ】
諸説分かれるが公式では本作が梶原一騎の原作者デビュー作とされている。実在の人物と架空のキャラクターの絡み、次号への興味を読者に持たせる絶妙なヒキの展開、敗北からの勝利、友情と努力、必殺技等…デビュー作にして梶原漫画のエッセンスがすべて詰め込まれているのが凄い
。力道山を始め数多くのプロレスラーが登場する点においても、連載当時のプロレス界を知る上で貴重な作品である。(2024.11.24)
テレビドラマ化/1962.11.7~1963.5.6(フジテレビ系・制作:国際放映)全26回
「0戦…それは、日本が世界に誇った戦斗機である…そして、その名はわれらの中西鉄也が、斗志とスピードの上に栄光とかがやく名前である」
「0戦チャンピオン」
(画:吉田竜夫)
ぼくら 連載/8月号~1963年9月号
※高森朝雄 名義
中西鉄也は、ハワイの真珠湾で興行するサーカス団の花形空中ブランコ乗りだ。元ボクサーのジミー・スミスに才能を見い出されボクシングを始めた彼は、O戦の名パイロットである父の戦法を応用した必殺パンチ“十字3段打ち”で勝利を重ね、また危機をも乗り越えていった。ニューヨーク選手権で見事王座に輝いた鉄也は、父母の故郷・日本のボクシング界を新たな活躍の場にするべく、スミスコーチや娘のマリ-、親友の三平らと共に帰国を果たした。初めて体験する減量の苦しみにも打ち勝ち、連勝を重ねる鉄也の前に、力道山が天才と認める怪少年・大神タケルが現われた!ついに激突した2人。結果はタケルに“十字3段打ち”を破られた鉄也の敗北に終わる。己の未熟さを恥じ、猛特訓を積み重ねた鉄也は新しいパンチ“十字5段打ち”で見事タケルに勝利した。心のたたかいにも勝ち、ボクサーとしてひとまわり成長した彼は更なる戦いに挑んでいく。太平洋タイトルマッチを制し、見事フライ級王座を勝ち取った鉄也。真珠湾を望む父の墓を訪れた彼は更なる目標・世界の王座に向けて闘志を燃やすのだった。
電子書籍:未刊行
単行本:宏文堂出版/全5巻(未完)※1963.7月号途中まで収録
第1巻「荒修業の巻」
第2巻「挑戦の巻」
第3巻「戦艦大和の巻」
第4巻「無敵巨人の巻」
第5巻「竜虎対決の巻」
マンガショップ/マンガショップシリーズ全2巻【完全版】
【BONメモ】
当時連載中のヒット作『チャンピオン太』と同コンビによる、題材をプロレスからボクシングに変えて作られた“チャンピオン”シリーズ第2弾。 だが『チャンピオン太』での力道山にあたる、主人公の師となるキャラクターの不在や実在する人気選手を物語に織りまぜる事があまりなかったため(差別化として敢てそうしたかも知れないが)、作品の荒唐無稽さがより際立ってしまった。それでも減量の苦しさをエピソードとして紹介するなど梶原氏の得意ジャンルであるボクシングを漫画作品として成功させようとする意欲は感じられた。同じ高森朝雄名義で書かれるボクシング漫画の名作『あしたのジョー』が登場するのはこの6年後である。
「この新戦艦大和は平和の使者です 大和は平和をみだすものだけを攻撃するのです」
「新戦艦大和」
(画:団鉄也)
少年画報 連載/7月号~1964.3月号
日本を訪問するアメリカの新大統領が乗った旅客機が、自衛隊の戦闘機を装った謎の一味に襲われる事件が起こる。その危機を救いに、突如海上から空を飛ぶ戦艦大和が現われた!指揮をする元海軍で造船大佐だった沖田。彼は大東亜戦争の最中に軍事科学者のキラー博士にさらわれ、世界征服の為に飛行能力を備えた戦艦大和の建造を持ちかけられた。博士に協力するふりをして完成させた新戦艦大和を、防衛の武器とするために協力者達と基地を逃げ出した沖田。理解者だった息子の雄介に中学生の光一も加わり、新戦艦大和はキラー博士の陰謀に立ち向かう。その後、博士の策略によって開戦寸前だった日米戦争も彼等の活躍によって回避され、逆にキラー博士は追い詰められる形に。しかし、彼の悪魔の発明機械は、その攻撃をことごとくはねかえす。更に50メガトンの水爆を積んだ小型ロボット群を新戦艦大和に差し向け退却するキラー博士。日本絶体絶命の危機!しかし博士自身が爆発の威力から遠く離れるためにロボットの進行速度を遅くしたことを逆手に、船員達の時限装置解除作戦が決行。無事外された水爆をキラー博士の悪魔要塞へと砲撃!海上に立ち上るキノコ雲と共にキラー博士の野望は潰えたのであった。
あらすじをまとめる上で省略したが、本作は沖田の次男・光一を主人公にして展開している。数々の危機に際しての彼の勇気ある行動と台詞は、この時代の少年漫画の主人公にふさわしい(中学生だけどw)。キラー博士の息子・ロバートとの戦いや思いのぶつかり合いの末に友情が芽生える展開は、後の梶原漫画の熱血要素が垣間見える。なお本作は、後年にアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の大ヒットに対して“戦艦大和が空を飛ぶアイデアは俺が先だ!”とクレームをつけたという逸話が有名だが、私自身は円谷プロの特撮ドラマ『マイティジャック』の方が作品の雰囲気は似てると感じたが、そっちは何とも思わなかったのかなぁ、と。
「いや 宮本武蔵は たしかに 忍者でもある」
「忍者宮本武蔵」
(画:どやたかし)
週刊少年マガジン/34号
慶長の年の頃、野原で遊ぶ子供達の前に現れた三度笠の男。彼は子供達に宮本武蔵は忍者でもあり、佐々木小次郎も忍法で敗ったと語るのだ…。ある果たし合いを、空を飛ぶ術で倒した武蔵の前に現れた小次郎。武蔵を倒し日本一の剣豪の座を手に入れるのは自分だと豪語する小次郎に、つばめ谷のつばめを斬る程の腕前になれば戦うと約束。一方、小次郎を父の仇と付け狙う少女は、易者が教えた仇討ちの方法を試すべくつばめ谷へ向い、技を磨く小次郎に気付かれない様に白ユリを投げた。花が彼の刀の動きをすりぬけ頭の上にのったその時、「つばめ返し」は完成したのだった。そして運命の巌流島の決闘の日が来た。武蔵に襲いかかる小次郎の「つばめ返し」!その時、武蔵は小次郎にむかい白ユリを投付け、花の軌跡を追うように木刀を降り下し、頭上にのった花もろとも打ち据えられた!!勝負は武蔵の勝利に終わる。小次郎につばめ谷へ向わせた事も、少女にユリを投げさせた事も(易者は武蔵の変装)全て小次郎を敗る忍法だったのだ…。話終わる男に突然襲いかかる侍が斬った三度笠の中から現れた顔。何と男は宮本武蔵だった。侍をあっさり切り倒すと、驚く子供達に別れを告げ武蔵は何処となく去っていった。
【BONメモ】
この話のミソは宮本武蔵が忍者であった事よりも、巌流島の決闘は小次郎が武蔵に戦いを挑んだ時にすでに術(忍法波よせの術)にはまっており、実はこの時点で小次郎は敗れていたという所にある。その伏線であるつばめ谷への誘いや、易者に変装して少女を利用したつばめ返しの弱点作り等の構成が弱くて一度読んだだけではその意味がよく理解できなかったりする。しかし、歴史上の人物に空想の設定を当て込む発想は面白いし、空を飛んで敵を斬る武蔵の絵は凄いインパクトだ。
「なにもおっしゃらずに ぼくがぶったおれるまでノックしてください この練習には柴田勲の野球生命がかかっているんです おねがいしますっ」
「忍者柴田」
(画:古城武司)
週刊少年マガジン
連載/38号~41号
※高森朝雄 名義
●1962年、投手としてデビューした巨人軍の柴田勲は、その才能を見切られ野手への転向を言い渡される。失意の柴田の前に現れた少女・霧子は、故郷で偶然に見つけた甲賀忍術の秘伝書をプレゼントする。彼女の励ましにより野手としての再起を誓う柴田は、秘伝書に書かれた忍法の極意を次々と身に付けていく。走塁・打撃と磨かれた技術を評価され1軍復帰は確実かと思われたが、川上監督は肩の弱さを指摘する。同期デビューの尾崎投手の活躍に焦る柴田をやさしく支える霧子。秘伝書「火薬だまの術」を会得すれば強肩になれるのだが、その手段は犠牲を伴う危険なものなのだ。柴田の将来を信じ、自らその犠牲となることを申し出る霧子。一度は拒否するが突如現れた不良たちとのトラブルで実践せざるおえなくなる。激流を背にぎりぎりの淵に立った霧子目がけて、遠くから球を投げる柴田、もし球が当れば霧子は激流に落ちてしまう。彼女の頭上を越える程の球を投げられれば「火薬だまの術」は会得できるのだ。運命の一投は、見事霧子の頭上を通過。喜びあう2人を影から見守る川上と長島。攻・走・守の3拍子そろった柴田は、セ=リーグの若きプリンスと呼ばれる大選手として活躍するのだった。
単行本:電子書籍含め未刊行
【BONメモ】
SPORTS
FICTIONシリーズの1作(他には梶原原作ではないが珍作「ロボット長島/画・貝塚ひろし」がある)。もしも◯◯が××だったら…といったノリで、忍者のいた里で育ったファンの娘に、技を記した巻き物を貰った柴田選手がその技を身に付けて巨人のスター選手となり活躍する話。あまりの御都合主義的展開(忍法がそんな簡単に身に付いていいのか!?)に加え、彼自身のキャラクターも弱いのでカタルシスに欠けた感もある。設定の枷が、梶原氏の持ち味を活かせなかったようだ。
「いまの子どもたちが愛するのは戦争じゃなくて そのきよらかなこころなんだ」
「大空三四郎」
(画:吉田竜夫)
ぼくら
連載/10月号~1964.8月号
※高森朝雄 名義
翼三四郎は弱小宣伝航空会社の専属パイロット。太平洋戦争で撃墜王だった父の血を受け継ぐ空の天才少年だ。アメリカ空軍の曲芸飛行に乱入し腕前を披露したことをキッカケに、スネーク軍曹と飛行対決。父の形見『0戦21世紀』に乗り込み見事勝利をおさめた。一つの栄冠は新たな闘いを生み、空の殺人レーサー・Xに招かれ地獄の大レースに参加した三四郎。しかしレースの黒幕である暗殺団の策略によって大統領暗殺の一味と疑われてしまう。汚名を晴らすため、三四郎は暗殺団の一味として潜入。大空のひみつ警察スミス長官を救出し、見事事件を解決に導いた。新たな挑戦者ヘンリー=星によって初めて味わわされた敗北と挫折感を見事に克服し、再び勝利を手にした三四郎の元にスミス長官が現れる。彼の誘いを受けて大空のひみつ警察メンバーになることにした三四郎はカリフォルニア州にある養成学校への入学。他の生徒からのイジメにもめげずに訓練に明け暮れる。パラシュート降下の練習が行われたある日。先に降下した生徒のパラシュートが開かないというアクシデントが起った。ひとり身を挺して飛び降り、生徒を助けた三四郎。気絶し横たわる彼の姿に、国境を越えた友情を感じた教官や生徒達は熱い涙を流すのであった。
電子書籍:未刊行
単行本:マンガショップ/マンガショップシリーズ全2巻【完全版】
【BONメモ】
口うるさくって喧嘩っぱやい、しかし勝負を挑まれれば危険を顧みず挑んでしまう勇気も持つ主人公。優等生タイプの多い当時の漫画作品にあって、翼三四郎は読者に強い印象を与える魅力的なキャラクターだ。しかし飛行機の対決を見せ場とするストーリー展開は盛り上がりと説得力に欠けて、新たな敵との戦いを繰返す内に作品のパワーが失速していくように感じた。後年、幾多の作品で舞台を移し新たな展開を見せるのかと期待すると、尻切れトンボな結末を迎えるというパターンが見受けられたが、それをこんな初期の作品で見ようとは思わなかった。残念。
「でも たえまないたたかいのために 月や花を見てうつくしいとおもう心までなくしてしまうのは さびしすぎる」
「ふりそで剣士」
(画:東浦美津夫)
週刊少女フレンド
連載/40号~1964.11号
慶長17年。甲斐の国(今の山梨)にある若葉城に雪姫という勝ち気な娘がいた。彼女は幼い頃に母を亡くし、当主である父も家老・大田黒の策略によって命を奪われた。徳川側に取り入る為に重税をかける大田黒の悪政から城下の人々を守り、父の仇を討つ事を誓った雪姫は男に身を変え“ふりそで剣士”と名乗った。戦いの中で、志を共にする野武士集団・疾風一族と、その師・宮本武蔵との出会い。武蔵の指導により、雪姫は剣の腕前をあげていく。己の野心の為に、雪姫の暗殺と疾風一族を滅ぼそうとする大田黒は、殺し屋や忍者を送り込んだ。幾多の危機が彼女達を襲い、一族は離散。雪姫はリーダーの疾風之介と2人で戦いを続けていた。そして最後の使者・女忍者美鬼の催眠術により、凶暴となった大勢の犬達に襲われた2人。彼女を守る為に自らの身体を投げ出した疾風之介は命を落としてしまった。彼の行動にうたれた美鬼は、大田黒を裏切り彼女の復讐を叶えさせようとする。翌日、美鬼によって捕われたフリをして大田黒に近付き、自らの剣で遂に父の仇を討った雪姫。彼女は牢に入れられた家来達を救い、若葉城をおさめて城下の人々と幸せに暮らすようになった。
電子書籍:未刊行
単行本:宏文堂/全2巻(※単行本収録分には、連載時の未収録頁が多数存在する)
【BONメモ】
タイトルから、少女の胸のすく活躍振りを期待すると肩透かしを喰らうだろう。本作は、雪姫と疾風之介のラブスト-リ-なのだ。ある誤解から一度は雪姫を殺そうとするが、その美しさに心を奪われた疾風之介。彼は“ふりそで剣士”の正体が雪姫である事を知らずに彼女を戦いを続けている。一方、彼を愛するようになる雪姫は、自分の正体を告げられず悩む。そんな2人の愛の悲劇的結末はまさに梶原ワールド!愛する者を守る為に自らを犠牲する姿を見て敵側が心うたれる展開に、『愛と誠/花園実業高校編』のクライマックスを思い出した。
「ハリス無段 風巻竜は弱い 弱い! 弱いのだ まだまだ弱いが 柔道ひとすじに生きてゆくぞー」
「ハリス無段」
(画:吉田竜夫)
週刊少年マガジン 連載/51号~1965年15号
無敵の新しい柔道をつくりあげる野望に燃える青年・風巻竜。赤貧の科学者・ハリス博士との出会いにより“ハリス流柔道”の完成を共に目指す。大秘術スクリュー落としを編み出し、日本選手権大会に参加した竜は決勝戦まで勝ち進む。だが新たな敵・柔術新撰組の策謀により竜は不戦敗で敗れてしまうばかりか、ハリス博士を亡くしてしまった。悲しみを乗り越え、竜は単身ハリス流を守り育てる決意を新たにする。講道館で学ぶ友人・団と小百合らの支えや励ましにより、空気投げの舟木明、ミラクルCのロバート・南郷、パーフェクト地獄のパーフェクトらライバル達に勝利する。そして昭和39年、東京オリンピックが開催。特別級に出場した竜は新秘術・五輪回転投げで強敵・ヘーシンク二世を敗り金メダルを獲得。
一躍有名人となった彼を倒し、自らがつくりあげた柔道“逆流”を天下に広める野望に燃える青年・天童三郎太が現れた。舞台は故郷・熊本に移り、師・うめぼし和尚との再会を通じての戦いは、竜に新たな悟りを開かせたのだ。東京に戻ったある日、車椅子の不良少年・栄一と出会った竜は、柔道の正しい精神で彼を更正させようとする。始めは反発していた栄一だが、自らを捨てて行動する竜の姿に目を覚まし改心する。柔術家として、一人の人間として風巻竜は大きく成長した。だがハリス流が目指す柔の道はこれからも続くのだ。
電子書籍:未刊行
単行本:秋田書店/サンデーコミックス全3巻(未完結 ※65年10号途中迄 ※雑誌連載と単行本収録順が異なり、未収録エピソードや台詞の改ざんも多い)
マンガショップ/マンガショップシリーズ全3巻【完全版】(※サンデーコミックス版に未収録エピソードを加え連載順に再編集)
【BONメモ】
天下の講道館柔道に属さず、自身の追究する新しい柔道をつくるというビジョンに燃える主人公の物語。そう書けば、幾多の苦難や悲劇、妨害に単身挑むドラマが展開されると思うのだが、実際は次々現れるライバル達との必殺技対決とそのドラマがメインとなる(もちろん苦難も多少描かれるが、吉田氏の絵のタッチのやわらかさが重いイメージを軽く見せている)。だが時代は1963年。体制に背く主人公の苦闘のドラマを少年誌で描くには、まだ早かったということだろう。そういった意味でも、本作は早すぎた“柔道”バカ一代なのかもしれない。す
「手刀だ!武蔵は両手の剣…わしも両手の手刀 どちらも二刀流だ!」
「二刀流力道山」
(画:水島朗)
週刊少年マガジン 連載/1号~10号
※高森朝雄 名義
時期横綱と言われながらも相撲界を引退した力道山。第2の人生を模索していた彼が、宮本武蔵の生きざまに共鳴しプロレスラ-の道を歩み始めた。まずはハワイを舞台に、武蔵の二刀流からヒントを得た必殺技“空手チョップ”で強敵を次々と倒していく。やがて本場のプロレスを体験すべくアメリカに乗り込んだ力道山は、反日感情が残る異国でも、その強さと人柄で次第に人々の心を捉えていった。そして鉄人ルー・テーズとの対戦で初めての知る敗北の苦さ。いつの日にかの復讐を胸に故郷・日本に帰った彼は、シャープ兄弟を招聘する。木村政彦とコンビを組んでこれを迎え撃ち、一躍プロレスブームを巻き起こすが、反旗を翻した木村に挑戦状を叩き付けられる。真剣の刃を物としない木村には、空手チョップは通用しない。これまでのように宮本武蔵の書物に秘策を求める力道山だったが、1人の不良少年に自分の力で戦う勇気を示すために無策のままリングに向かう。空手チョップを封じられ苦戦する力道山。だが、ふとした事をヒントに見事な逆襲に転じて勝利を収めた。その後、テーズを敗り世界の王座に立つが、昭和38年の冬に突然の事故でこの世を去った。彼のプロレスにかけた波瀾の生涯は、これからも人々に語り継がれる事だろう。
単行本:電子書籍含め未刊行
【BONメモ】
実在の人物を素材に、史実と空想を交えて展開するストーリーや特訓アイテム(から手チョップ強化器!)の登場。加えて教訓話や困難突破に到るカタルシスと梶原原作黄金パターンの見本漫画のようだ。惜しむらくは、絵を担当した水島氏のタッチでは優しすぎて試合の迫力が感じられなかった。劇画系の漫画家と組めば本作の評価も違ったものになっていただろうと思う。この後、力道山亡き後の主役として豊登を取り上げた漫画(戦艦豊登)が作られるが、作品としてもキャラクターとしても力道山の比ではなく失敗に終わった。
「力道山さんが豊登さんをかばって ひとりでもたたかおうとなさってるいるように…ぼくもくるしい生活にまけず 妹をまもって つよくただしく生きていきます」
「空手にかけたちかい」
(画:荘司としお)
ぼくら/2月号
アジア=タッグ選手権試合で豊登とタッグを組み、グレート&ザ=サタンの化け物コンビと試合をした日本プロレスの王者・力道山。試合は反則勝ちに終わるが、執念深いグレート&ザ=サタンのコンビは2週間後に再戦を申し込んだ。試合後、力道山は両親のない幼い兄妹と出逢う。大ファンの力道山に握手され有頂天の兄・光雄は、はしゃいで道路に飛び出し車に轢かれてしまう!幸い命は取り留めたものの、失明の危険に晒される光雄少年。幼いファンの無事を願い、力道山は次の試合に必殺技・空手チョップなしで戦う決意をする!そして2週間後の再試合。前回グレート&ザ=サタンコンビの反則技に痛めつけられた豊登は出場するのが精一杯で、力道山は1人で2人と戦わなければならない。グレート&ザ=サタンコンビの狙いはそこにあったのだ。自ら必殺技を封じた為に苦戦する力道山。だが、無意識に繰り出した関取時代の技で危機を脱出!ザ=サタンはリング上にノビた。勢いに乗った力道山はグレートを押し倒すと、ザ=サタンを担ぎ上げてその上に飛び乗るという大技でノックアウト!その頃病院では、力道山の願いが天に届いたのか光雄少年の視力が回復する。幼い兄妹に再び笑顔が戻るのだった。
単行本:電子書籍含め未刊行
【BONメモ】
正確なデータがないので断言は出来ないが、本誌2月号は月刊誌の通例にならい1964年の1月発売だと思う。故に本編が執筆されている(と思われる)1963年12月には力道山は死去、または入院中であると思われる。幼い1ファンが失明(本編では“め●ら”)しないように、と自らの武器を封じる事で願をかける力道山。だが実際には、幼い少年を含む全国のファンから奇跡の生還を願われる事になるとは、原作を書いた梶原氏も想像できなかったであろう。そんな事を考えながら読むと、最後のコマの力道山や少年の笑顔に哀愁を感じてしまうのだ。
「豊登道春は力道山先生なきあと日本プロレス界をまもりぬくために命をかけています。」
「潜艦豊登」
(画:水島朗)
週刊少年マガジン/15号・20号
※高森朝雄 名義
体重300Kの殺人空母グレートと対戦することになった豊登。力道山亡き後の日本プロレスのエースとして、何としても勝利を収めるために、以前力道山から与えられた言葉をヒントに太平洋戦争で鬼艦長と呼ばれた桜井という老人を訪ね、潜水艦による戦法を教わろうとする。グレートを空母・自分を潜水艦に見立てる事で、打倒策をつかむためだ。一度は断わる桜井だが、彼の熱意に打たれ空母殺しの秘術を教えることにする。1週間に渡る海上での厳しい特訓の末、秘術をマスターした豊登は、見事殺人空母グレートを倒すのであった。(15号)
豊登と吉村が持つ日本唯一のタイトル・アジアタッグ選手権に、キニスキー、ザ=マミーのコンビが挑戦してきた。試合は1週間後だ。しかし吉村は敵の策略にはまり全治10日のケガを負っていた。吉村を庇い2人の相手と戦い、勝利を得る為の戦法を考える豊登の前に再び桜井老人が現れた。彼の戦争体験をヒントに新戦法を思いたった豊登は、後輩を相手に特訓を始める。そして試合当日。吉村には交代させず1人で相手のタッグチームと戦う豊登は苦戦する。それに付け込んだ相手の油断を利用して一度に2人を倒し、王座を守ったのだ。(20号)
単行本:電子書籍含め未刊行
【BONメモ】
国民的英雄・力道山が亡き後の日本プロレス界で、新たなヒーローとして当時注目されていた豊登を主人公にした作品。昭和40年生まれの筆者にとっては豊登はアントニオ猪木を日本プロレスから引き抜いた悪者というイメージがあって当時の彼の評価を平等に下せない。しかし読み切り2作のみで以降に彼を題材にした作品が生まれなかったところから考えると、どうやら評判はよくなかったようだ。力道山に潜艦に例えられたという理由で、潜水艦の元艦長に戦い方を教わるという強引な展開は梶原氏ならではのパターン。その特訓のシーンは結構笑える。20号の方はジャイアント馬場が相手役を務め、かしの木のハンマーで豊登に殴りかかっていた。
「もしほんとうに未来人の超能力をぼくがもっているなら その能力を野球にいかすことはできないものか」
「未来人王」
(画:古城武司)
週刊少年マガジン/35号
※高森朝雄
名義
昭和36年。読売巨人軍の王貞治選手は、試合中のケガによる危機的状況で、予知能力が働き相手投手の考えが読めるようになる。だが思い返せば中学生時代にも、同じような能力が働いたことがあったのだ。「自分はもしかして未来人が持つと言われる能力を授かっているのか?」それが野球に活かすことができれば、打者としてもっと大きく成長できると考えた王。様々な方法で試してみるが、未来人の能力は5回に1回しか働かない。苦悩の末、荒川コーチに相談すると変則打撃のフォームにより常に自分を不安定な状態に追い込む事で能力を発揮する打法。すなわち一本足打法を会得することを薦めるのだった。それから、荒川コーチとの二人三脚の特訓はシーズンオフの期間中続けられた。そして昭和37年、自らの能力を開眼した王は一本足打法でホームランを量産し巨人の不動の3番打者となりホームラン王にも輝いた。続く38年には前年に続き連続ホームラン王となる。そして39年、阪神戦において1試合3連続ホームランという日本タイ記録をマーク。新記録達成をかけた第4打席、未来人の能力を会得した王には恐いものはなく、相手投手の球種見抜き見事ホームラン!新記録を達成したのであった。
単行本:電子書籍含め未刊行
【BONメモ】
自分が未来人の能力を持っているのか確かめるために、絆創膏で目を塞いだ上にさらに目隠しをして車を運転。突き当たりの下は断崖の海という坂道を走らせ、一度は成功するが二度目は失敗。海に転落し、車は大破・沈没するが、何事もなかったかのごとく「やっぱりだめだ…」と王さんが岩場で落ち込むという一騎イズム溢れる名シーンが見どころ。「死ぬだろ普通!」なんて言うツッコミ入れるのは梶原漫画を読む上ではヤボというものです。ダイナミックな嘘を楽しむ、これが基本ですね。